障害者福祉に携わる上では欠かすことのできない「ノーマライゼーション」という考え方。

 

なんとなく、言葉の表面的な意味や趣旨は分かっても、なかなか具体的な事例や発祥の歴史といったことまでは理解が追いついていないと思います。

 

ここでは、「ノーマライゼーション」について、より理解を深めていきたいと思います。

ノーマライゼーションの歴史

ノーマライゼーションとは、もともとは障害者であっても地域社会で普通に暮らせる社会を実現するという考え方です。

 

この考え方は、1940年代からスウェーデンで用いられていた表現でしたが、デンマークの福祉行政官で知的障害者の親の会の活動に共感したバンク=ミケルセンの尽力により「1959年法」にその考え方が盛り込まれました。

 

ミケルセンの語り

 障害がある人たちに、障害のない人々と同じ生活条件を作り出すことを「ノーマリゼーション」といいます。「ノーマライズ」というのは、障害がある人を「ノーマルにする」ことではありません。彼らの生活の条件をノーマルにすることです。このことは、とくに正しく理解されねばなりません。ノーマルな生活条件とは、その国の人びとが生活している通常の生活条件ということです

引用元:『障害者福祉』(株)ミネルヴァ書房・2017年

 

その後、1969年にスウェーデンのニィリエによって「ノーマライゼーションの原理」がわかりやすい枠組みを用いて示されたことでたちまちその考え方が広まりました。

 

それまで知的障害者に対して北欧で一般的であった入所型施設での社会福祉サービスは、障害者から人間の尊厳を奪うものであったことを踏まえて主張されたのです。

 

ノーマライゼーションの考え方

ニィリエは、ミケルセンが語った「ノーマルな生活条件」ついて、8つの原理として具体的に整理しました。

 

ニィリエが提唱した8つの原理

①ノーマルな一日のリズムを送る

②ノーマルな一週間のリズムを送る

③ノーマルな一年のリズムを送る

④個人のライフサイクルを通してのノーマルな発達的経験をする機会を持つ

⑤障害者の選択や願い、要望ができる限り考慮され尊重される

⑥男女が共に住む世界での生活を送る

⑦ノーマルな経済水準を得る

⑧設備が、障害のない人を対象とする施設と同じレベルのものである

 

このような「普通の生活」ができない状況で生きることを国家や社会によって強いられている人々の人権を回復する、それこそがノーマライゼーションを考える上での根本となります。

 

それは、単に障害者のことだけではありません。少し踏み込んで言うと、社会的マジョリティによって奪われたマイノリティの人権回復という考え方と言えます。

 

北欧の知的障害者の領域から展開したこの考え方は、遅れながらも日本においても法制度化が進んでおり、今日では社会福祉の基本的な理念のひとつになっています。

 

日本型ノーマライゼーション

日本におけるノーマライゼーションに関連する法律や制度はさまざまなものが存在しますが、ここでは、日本型ノーマライゼーションといわれる考え方を紹介します。

 

それが、近江学園を創設し、知的障害者の福祉に生涯を捧げた糸賀一雄氏が唱えた「この子らを世の光に」です。

 

糸賀一雄氏はこの考え方について以下のように述べています。

「この子らはどんなに重い障害を持っていても、だれととりかえることもできない個性的な自己実現をしているものなのである。人間と生まれて、その人なりの人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちのねがいは、重症の障害を持った子供達も立派な生産者であるということを、認めあえる社会をつくろうということである。『この子ら世の光』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく、この子らが自らが輝く存在そのものであるから、いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『この子ら世の光』である」

引用元:松下政経塾「ノーマライゼーション社会の実現 ~すべての人が、自立し、自律でき、矜持をもつことのできる社会を目指して~」

 

ノーマライゼーションの実践例

①社会インフラについての事例

駅や空港などの交通インフラ、公民館や役所などの公的施設、百貨店やスーパーなどの民間施設の至るところで、障害がある人でも地域社会に出てできる限り自分の力で活動できるように整備が進んでいます

 

具体的には、エスカレーターやエレベーターの増設・階段の簡易リフト・建物のスロープ・優先席(優先駐車スペース)・点字・視覚障害者誘導ブロック、などが挙げられます。

 

②働き方についての事例

障害者雇用促進法などの法令に基づき、企業が障害のある人を雇用したり訓練した場合には補助金がでるなど、障害のある人が就労しやすいように条件を整えています

 

また、シルバー人材という仕組みを通じて、定年等で仕事を終えた年代の人たちが特技やできることを活かせる場を作っています。高齢であっても仕事をして報酬を得るということができます。

 

③余興活動についての事例

通常のスポーツのルールでは障害のある人は参加できなかったり大きなハンデを負うことになります。

 

しかし最近ではパラリンピックなどの注目によりパラスポーツ、障害者スポーツが普及してきています

 

例えば、視覚障害者の「ブラインドサッカー」や下肢障がい者の「車椅子バスケット」。

 

また、障害があっても旅行できるサービスを提供してくれる旅行プランや、ボランティアによる旅行の付き添いという活動が増えつつあります。障害があっても旅を楽しめるよう様々な方法が考えられています

 

さいごに

ノーマライゼーションの実現にあたって重要なこと、それは「地域でのふれあい」「支えあう仕組みづくり」「相互理解」・・・。

 

言ってしまえばワンフレーズで完結するような簡単なことではありますが、いざ実践となると、とても難しい問題だと思います。

 

ただ、例えば幼少のときから障害その他何らかのハンデを抱えた子たちと、同じように生活し、同じように成長していく経験をしていたとすれば、本当は難しく考えていくような問題と認識されるものではないのかも知れません。

 

どのような背景を持っている人とも、共に地域社会の中で生活することが「当たり前」の世の中

 

こうした社会への変容とともに、「課題」や「問題」と認識されるものの中味も変わってくるのではないでしょうか。

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