社会福祉士や介護福祉士などの福祉系の資格であったり、福祉系の大学の講義の課程で出てくることの多い「エンパワメント」「アドボカシー」という用語。

 

日常生活の場ではもちろん、たとえ障害者支援の現場であっても馴染みの薄い言葉だと思います。

 

ただ、こうした言葉の定義や背景を知ることが、自分自身の意識や行動を変えたり、後押ししたりするキッカケになることもあります。

 

ここでは、日頃の生活の中ではなかなか学ぶ機会が無いであろう「エンパワメント」「アドボカシー」について、理解を深めていきたいと思います。

「エンパワメント」とは?

―長い間、病院や入所施設での暮らしを余儀なくされる。

 

―あるいは障害ゆえに職場や学校、仲間から排除されてしまう。

 

そのような経験が続くと、夢や希望を抱けなくなり、自身を喪失し、諦めに支配され、「どうせ」「しかたない」と思い込むようになってしまいます。

 

従来、これらの問題は「個人の性格や障害の特性の問題」とされてきました。

 

しかし、こうした状態について、「パワーの欠如状態が続く中で、無力化された人である」、ととらえると同じ人でも随分見方が変わります。

 

そして、無力感を自身に変え、自分らしく生きるための自己主張や自己選択の機会を取り戻すためには、様々な支援が必要とされます。

 

この支援プロセスこそ、エンパワメントの本質なのです

 

エンパワー(empower)という英語は、新英和大辞典では「権能(権限)を付与する、可能にさせる」と定義されています。

 

アメリカでは、人種差別の中で公民権を得られていなかった黒人たちが、自身の権利を主張し、抑圧された状態からの解放を社会に訴えていく公民権運動が1950年代から1960年代に拡がりました。

 

その後、1976年にソロモンが、『黒人のエンパワメント』という著作の中で、ソーシャルワークにおけるエンパワメントの重要性を説いたのです。

 

こうして、エンパワメントの考え方は「抑圧された状態にある人」全般へと広まっていき、女性運動や様々なマイノリティの権利獲得運動、障害者運動の中で使われるようになりました。

 

「アドボカシー」とは?

エンパワメントを達成するための重要な手段がアドボカシーです。

 

アドボカシーとは、「特定の対象者(集団)のために既存の(又は今後の)政策や実践を変える目的を持つ活動」であり「権利擁護」とも呼ばれています。

 

ある個人の権利侵害の実態を変えるための個別アドボカシーと、同じような問題を抱える集団全体の権利を守るために法制度の設定・変更を求めるシステムアドボカシーの双方が重要となります。

 

方法論としては、

・セルフアドボカシー

・市民アドボカシー

・法に関するアドボカシー

の3つがあります。

 

また、関連性の高いものとして、セルフヘルプグループも挙げられます。

セルフヘルプグループとは?

同じ悩みや苦しみを抱えている者同士が体験を共有し、自分たち相互で支え合う自助活動のことを言います。この活動の特徴は、自分たちの悩みや問題をまず仲間達で気持ちや情報、考え方を「わかちあい」、それを抱えた一人の人間として自己決定・自己選択しながら社会へ参加して「ひとりだち」すると共に、自分たちの尊厳を取り戻し、社会に向かって積極的に働きかけ、その問題から「ときはなつ」ことです。

 

「セルフアドボカシー」の取組

このセルフヘルプグループのプロセスの中から、セルフアドボカシーが生まれます。

 

セルフアドボカシーとは、「自分のために発言し、自分の人生に影響を与える決定に参画できるようエンパワメントすること」を目的とした権利擁護実践です。

 

この活動は、

・知的障害者のピープルファースト運動

・身体障害者の自立生活運動

・精神障害者の患者会活動

のような形で「社会への働きかけ」も進んでいます。

 

その最たる例が、国連の権利条約制定やわが国の障がい者制度改革などの場で、障害当事者の求める政策形成にも取り組む障害者インターナショナル(DPI)でしょう。

障害者インターナショナル(DPI)とは?

1980年に開かれた、障害者のための専門家組織リハビリテーション・インターナショナル(RI)世界会議の際に、世界各国の障害当事者が「各国代表団の半分を障害者とする」という提案をするも否決されました。そこで障害者達は独自の組織を結成することにし、翌81年に障害者インターナショナル(DPI)が設立されました。

 

日本でも同年、身体・知的・精神など、障害の種別を超えて自らの声をもって活動する障害当事者団体としてDPI日本会議が設立されました。

 

また、セルフアドボカシーの具体的な手段としては、ピア・カウンセリングやピア・ヘルパー等のピア・サポートという、当事者同士の助け合いやエンパワメント実践も重要です。

ピア・カウンセリングとは?

ピア(peer)とは、仲間や対等という意味であり、仲間同士のカウンセリングのことを言います。従来の専門家によるカウンセリングと違い、同じ悩みや障害を抱えるもの同士が、同じ立場を共有しながら、精神的なサポートや情報提供、自己決定や地域自立生活に向けた準備・支援等を行う活動を指しています。

ピア・ヘルパーとは?

当事者が同じ障害を抱えた当事者を支援することです。日本では、精神病を体験した人が、ホームヘルパーの資格を取り、同じ病気のしんどさや生活のしづらさを抱える精神障害者へのホームヘルパーとして活躍するという精神障害者ピア・ヘルパー養成事業も全国各地で展開されています。

 

市民アドボカシー

入所施設や精神病院を生活の拠点としている障害者にとって、自分の思いや願い、あるいは職員への不満などを、入居者の介助をする立場の職員側に直接伝えることは、時として大変難しいことです。

 

そんな時に、行政でも専門家でもない、第三者の市民の立場から入居者の権利擁護や代弁をするのが市民アドボカシーです。

 

日本でも、様々な形での「オンブズマン活動」として市民アドボカシーが実践されています。

 

オンブズマンとは、「代弁者」という意味を持つスウェーデン語ですが、日本の福祉オンブズマン活動は、

①自治体の福祉行政をチェックする行政型福祉オンブズマン

②単独あるいは地域の施設においてサービス内容を第三者がチェックする施設型福祉オンブズマン

③行政文書の情報公開などを通してサービス内容をチェックする市民運動型福祉オンブズマン

の3つに分類できます。

 

市民アドボカシーの具体例として、入院中の精神障害者へのアドボカシーを目的とした活動が大阪で成果をあげています。

NPO大阪精神医療人権センターは、精神科病院への面会や病棟訪問、電話相談活動を続けています。

このうち病棟訪問活動は、大阪府の「療養環境サポーター活動」として事業化されたオンブズマン活動です。

また、同センターは情報公開制度を使って大阪府内の精神科病院の実態をチェックし続ける活動も続けており、市民アドボカシーの好事例と言えるのではないでしょうか。

 

法的・立法アドボカシー

法に関するアドボカシーに関しては、現行法の中での問題解決という法的アドボカシーと、新たな法制度の制定を求める立法アドボカシーの2つがあります。

 

法的アドボカシーとは、現行法で保障されている権利が侵害されている、又はその恐れがある場合での救済活動を指します。

 

成年後見制度や障害者虐待防止法での法的対応だけでなく、例えば地域自立生活を営む当事者が求める介護量(介護時間)が支給決定されない場合に行政を訴える裁判活動も、法的アドボカシーの一つと言えます。

 

また、立法アドボカシーとしては、国連障害者権利条約制定に向けた動きだけでなく、障害者自立支援法違憲訴訟なども挙げられます。

 

この法的・立法アドボカシーの領域でも近年、障害当事者の参画が進んでいます。

 

障害者基本法に制定された障害者政策委員会には、様々な障害当事者団体が関わっています。

 

また、都道府県レベルでの差別禁止条例制定にも多くの障害者団体がコミットしています。

 

自分たちのために「既存の、又は今後の政策や実践を変える目的を持つ活動」は、様々なレベルで展開されていることが分かります。

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